「湖の氷」についてのテレビ取材がこの5月、6月に続けてありました。ホームページに掲載されている東海林さんの「湖氷の世界」に興味が示されたことによるものと思われますが、テレビ取材への対応は、東海林さんが多用中により、「湖氷の世界」を監修されました高橋修平さんにお願いを致しました。ただ、高橋さんの折角の対応・回答は、番組の放映には余り反映されなかったようで、とても残念に思いました。このようなことから、ご本人の了承を頂き、ここに高橋さんの回答概略を掲載することに致しました。改めまして高橋さんのご尽力に感謝を致します。
テレビ取材① [2025/05/07]
【ウスリー川に春の気配が…】
URL→https://d.kuku.lu/u35d6m7zn (削除済み)
※縦に細長い無数の氷が河岸(または湖岸)に打ち寄せられてくる映像でした。(編集部注記)
場所は中国で、凍てついていた川に春が来ると、このように氷が動き出し、氷の破片が河岸に形成されていると説明が書いてありました。
映像のような現象をサイトで調べたところ、キャンドルアイスではないかと出てきたのですが、正しいでしょうか。また、珍しい光景なのでしょうか。現象の名前や仕組みについてご教授いただけますと幸いです。柱状に凍るのには特殊な条件等があるのでしょうか。こちらの現象をわかりやすく簡単に解説したいと考えております。
高橋さんからの回答
恐らく当NPO・HP「湖氷の世界第4版」を見られてのご質問と思いますが、私はこの原稿の監修・編集をしております。その中の動画には、塘路湖でのキャンドルアイスが吹き寄せられて崩れていく様子があります。
今回のウスリー川の動画の氷は、まさにキャンドルアイスです。しかもかなり細く、長いのが特徴です。日本でも湖の氷が融解するときにキャンドルアイスが見られることがあり、北海道のTV ニュースでも阿寒湖の観光船が春先の氷を割る時に見られたという報道が昔ありました。ただ、一般の方では見たことがある人は少ないと思います。なぜこのような細い氷になるかは、別便で図などを使って説明したいと思います。
キャンドルアイスについての説明 2025 年5 月9 日 高橋修平
1)キャンドルアイスの説明
新版雪氷辞典(2014) 日本雪氷学会監修(古今書院, 307pp)にはキャンドルアイスは次のように説明されています。キャンドルアイス:融解期に、湖氷などに見られるほぐれた柱状の氷のこと。これは結氷初期に、湖などの水温が0℃に近くなっているとき雪が降ると、雪は融解しないで水面を覆い、夜間に水とともに凍結して雪ごおりをつくる。このとき、氷が雪と水の混合層の下面を越えて成長し、厚い透明な氷板となるときにできる氷は、細いろうそく状の柱状結晶で構成されている。その氷板の内部に日光が入り、結晶粒界が融かされ、ろうそくに似た柱状にほぐれたキャンドルアイスができる。また、雪が積もらない場合でも、適量の氷晶が浮遊する状態から結氷が開始すると、解氷直前にキャンドルアイスが見られることになる。(東海林明雄)
つまり湖や川の氷が静かに凍る時、表面はランダムな向きな氷結晶であっても、下方に伸びるときは細長い単結晶ができます。冬の間は結晶の境目はわかりませんが、春になって日射が強くなると結晶の境目が融けて弱くなり、氷全体が岸に打ち上げられると、結晶がはなれて細長くバラバラとくずれます。その氷がキャンドルのように細長いことから、キャンドルアイスと呼ばれます。図1,2参照.
2)キャンドルアイスが細長い理由
①氷結晶には図3のように.氷結晶は基本的に鉛筆のような六角柱をしており,鉛筆の芯の方向をc 軸,中心から角に延びる方向をa 軸である. 雪結晶の場合,c軸の方に伸びれば針状の結晶となり,a 軸方向で横に伸びれば角板結晶や扇型結晶となる.
②温度で違う結晶形:
結晶のc軸の伸びる速さがa 軸より速いとき結晶は縦型(鉛筆が長くなる)になり,逆なら鉛筆がどんどん太くなる(角板型)になる.どちらが速いかは温度で変わり,図4に示すように結晶形は温度で変わる.0℃から-4℃までは角板であり,-10℃までは針状(角柱),次は角板,-25℃以下だとまた六角柱と変化する.湖や川で水が凍る時は0℃に近い氷点下の温度なので角板型であり,a 軸方向に横に伸びることになる.
③湖や川が凍る時:
図5のように,表層で初めに凍る氷や雪は,結晶の向きがバラバラだが,下に成長するにつれて,c軸が垂直な結晶は成長が遅くて取り残され,c軸が水平な結晶が生き残って,a 軸方向が成長した角板型構造の細長い単結晶となり,キャンドルアイスとなる.
※図5は今回用のオリジナル.
テレビ取材② [2025/06/25]
今回番組内で、アメリカ・モンタナ州で撮影された「音が鳴る湖」の映像の紹介を予定しています。映像は次のリンクよりご参照頂けます。https://viralhog.com/watch/file/396249903
(以下に質問が5 項目があり、それは「高橋さんからの回答」のQ1 からQ5 の通り)
高橋さんからの回答
順次、質問に従って説明します。まずお聞きしたいのがこの映像は撮影が朝なのか、夕方なのかです。朝のように見えるので、朝として説明します。
※最後にGood morning と言っているようですが for dinner とも言っているようで夕方?とも
思いますが朝食でもdinner と言うかなとも思います。
Q1) 凍り始めの薄い氷が、温度が下がることで収縮したり、温度が上がることで膨張したりする時に鳴る音である
A) 撮影が朝だとすれば、夜の間に氷が縮んで水面の割目ができ、朝日を浴びて膨張するときにどこかで氷がぶつかり合って盛り上がるなどしてできた音が響いて聞こえることになるでしょう。
Q2) この音が聞えるのは、湖の凍り始めから、完全に凍りついてしまうまでの「薄い氷」の間だけであるという解釈であっていますでしょうか?
A) ヒュンヒュンとなるのは氷が薄いときの特徴だと思います。
Q3) メカニズムはまだ解明されていないと言うような記事も多くみたのですが、上記が理由だとして 氷の音というと、グラスに入れた時のような「パキパキ」という音を想像するのですがこのようなピュンピュンという宇宙船のような音に聞える理由で考えられることはありますでしょうか?
A) 発信源が破裂音的であっても遠くに伝わる時の材質の固さなどで一定の音がこだまのように共鳴してなることがあります。まえにどこかのTV 番組から、日本のどこかの湖(群馬か山梨)できれいな氷が張った湖で石を投げるとヒュンヒュンとこだまのように響くのはなぜでしょうかと質問を受けたことがあります。その時は、雪も積もらずにきれいに張った透明な氷で張ると氷の板自体が共鳴するのでしょうと答えました。厚さは10cm 以下、はっきりわかりませんが5cm 位がいいのかもしれません。
Q4) 氷の膨張と収縮によって鳴る音である場合、どのように作用して、このような不思議な音が聞こえてくるのでしょうか。(湖の深さによって響いている?など)
A) 朝だとすると日が当たって膨張し、氷が盛り上がろうとするときに氷が破壊されてなります。ただ氷が厚いと単に破壊音になります。当NPOHP:電子書籍「湖氷の世界」第四版「湖氷の世界」東海林明雄 著の下の方の鞍状隆起(御神渡り)の動画では鞍状隆起(2)の中盤部では、目
の前の破壊の後にしばらくギシギシなったり、他でも起きているのか轟音が聞こえてきます。鞍状隆起(3)では氷破壊の前に事前にミリミリという音が聞こえてきます。鞍状隆起(7)では、急に動き出した氷に驚いて観測者が逃げるのが映像として面白いと言えます。
Q5) “また一日の寒暖差によって発生する音”という情報があったのですが、どのくらいの寒暖差があると起こりやすいものでしょうか。また寒暖差が一日の中で変化する場合にしか発生しないものでしょうか。(寒暖差の発生に時間がかかる場合は音は聞こえないものでしょうか)特定の条件で発生する場合、その条件はどのようなものでしょうか。
A) 北海道の屈斜路湖(差し渡し20km)の場合、添付のグラフ(添付の論文:東海林,2021)のように寒暖差10-15℃で氷板の間隔が変わります。湖の大きさにもよりますが寒暖差が10℃位必要でしょう。寒暖差があればどこかの時点で収縮破壊、あるいは膨張隆起による破壊は起きます。以上で回答の内容がご理解いただけたでしょうか?